動物病院へ連れて行った翌日、僕は決断した。
抗がん剤治療は体への負担が大きいので、
一時的な症状緩和を目的とする
ステロイドの投与を行うことにしたのである。
すると、その効果は大きく表れ、
にゃんたは再び元気を取り戻した。
しかし、これは一時的なものなので、
いつかは効果がなくなってしまう。
おそらく2~3か月が限度だと思われた。
僕はにゃんたとの残された日々を
どのように過ごせばいいのかを考えた。
考えに考えた結果、
まず写真と動画を撮影することにした。
にゃんたの写真はこれまでも撮っていたが、
動画はほとんど撮ったことがなかった。
また、にゃんたの写真のみではなく、
僕も一緒に写ることにした。
僕は自分の顔が嫌いだった。
だから、高校の時以後、証明写真を除いて
自分自身の写真をほとんど撮ったことがない。
僕のアルバムは中学生の時に
時間が止まってしまっていた。
季節は春。
撮影した場所は満開の桜の木の下。
僕はにゃんたをバッグに入れて抱え、
十数年ぶりに写真の被写体となった。
そして僕の止まっていた時間は再び動き出した。
これからにゃんたが生きているまでの間は
できる限り一緒にいてあげることにした。
それが僕がしてあげられる唯一のことだった。
同時に、僕は自分自身に対して
1つのミッションを課した。
それはにゃんたが死ぬ前に
「童貞を卒業する」ということである。
馬鹿らしく思えるかもしれないけど僕は真剣だった。
にゃんたが家にやってきたのは中学の頃。
これは僕が性に興味を持ち始めて
しばらく経った時期でもある。
それから女性というものに対して興味はあったものの
出会いなどあるはずもなく
20代の終わりになってしまった。
このままではいけない、という思いがあった。
僕は「ある計画」を実行に移す決意をしたのだった。